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忘れた「息子の名前」 若年性認知症進む50代男性 「何でこんな病気に…」

忘れた「息子の名前」 若年性認知症進む50代男性 「何でこんな病気に…」

最近は4人の子どもやその家族の名前も出にくくなってきた直江満志さん(左)。子どもの名前を書いたカードを見ながら、妻淳子さん(右)が「これが長男じゃないね」と指し示す=6月、熊本県宇城市

 『もうすぐ父の日が来[き]ます。今[いま]ならなんとリクエストを受付[うけつけ]ます』  熊本県宇城市の直江満志さん(55)には次男貴也さん(28)から定期的に手紙が届く。  「父ちゃんへ」で始まる初めての手紙は漢字の文章だった。父の日の前に届いた2通目は漢字に振り仮名が振られ、3通目以降は全て平仮名になった。  直江さんは若年性認知症が進み、漢字がほとんど読めない。返信は妻淳子さん(55)が文章を作り便箋に書き写す。『貴也へ 父ちゃんはあかいうんどうぐつがほしいです サイズは26・5です』  脳の障害によって認知機能が持続的に低下し、日常生活に支障を来す状態となる認知症。高齢期の認知症は全国で602万人に上り、65歳未満で発症する若年性は全国で3万7800人、熊本県内では722人と推計される。現役世代が発症するため、経済的、心理的な負担など課題は多い。  ◆   ◆  直江さんが「若年性アルツハイマー型認知症」と診断されたのは2017年5月。仕事を辞めた現在はデイサービスに週3日通い、平日の残り2日は家で留守番をする生活だ。淳子さんは「徘徊[はいかい]や暴力的な言動もなく、今のところ穏やかに暮らせている」と話す。

 日中は昼寝かテレビを見て過ごす。仕事に出掛ける淳子さんが作り置いた弁当は完食し、弁当箱は洗って水切りかごの中へ。洗濯物は取り込んできちょうめんに畳み、2週間に1回は散髪に行く。  ただ、できないことは徐々に増えてきた。家族の誕生日を忘れ、時計が読めなくなった。千円札3枚を認識しても、「3千円」と言えない。平仮名も書けなくなってきた。  4人の子どもやその妻、孫の名前を書いたカードを手に淳子さんが「長男の名前は」と尋ねると「あつや」と直江さん。「それは三男。長男は将也[まさや]」  直江さんは間違いをごまかすようにただニコニコするだけ。淳子さんも調子を合わせて笑うが、夫の症状の進み具合に表情を曇らせる。「子どもの名前も忘れるなんて、本当にショック」  ◆   ◆  6月下旬、上天草市であった“悪友会”に呼ばれた。野球などを楽しむ地元の先輩後輩のグループ。居酒屋に集まった17人はうわさで直江さんの病気を知っていた。周囲は温かく接するが、直江さんはほとんどの名前を思い出せないでいた。

 「頑張らなんぞ」。先輩から声をかけられた直江さんは急に肩を震わせ、おえつした。「何も悪いことしていないのに何でこんな病気にならなんとか」。人目もはばからず大声で泣き、周囲が「病気に負けんなよ」と励ますと余計に泣いた。  車で迎えに行った淳子さんは「お酒飲んで泣き上戸になったんよね」と言うと、直江さんはただ笑うだけ。泣いたことは既に忘れていたようだった。  直江さんは口癖のように言う。「認知症って何だろかね」(文化生活部・福井一基)