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六角家の破産に見た家系ラーメンの重要な岐路

六角家の破産に見た家系ラーメンの重要な岐路

全国のコンビニに並ぶカップ麺のブランドとしても知られた名店だった(筆者撮影)

 9月4日、ラーメンファンを驚かせるニュースが飛び込んできた。横浜家系ラーメンの老舗「六角家」が、横浜地裁より破産手続き開始決定を受けている、と一部で報じられたのだ。 【写真】クセになる人気を呼ぶ家系ラーメン  横浜家系ラーメン。1974年創業の「吉村家」(当時は新杉田駅近く)を源流とし、その弟子や孫弟子を中心に神奈川県を中心に広がっていった豚骨醤油ラーメンだ。濃厚な豚骨スープに醤油を強めに利かせ、上には鶏油をかける。トッピングはチャーシュー、ほうれん草、ネギ、ノリ3枚がお決まりだ。

 屋号に「○○家」という店名が多かったことからファンの間で「家系(いえけい)」と呼ばれる。クセになる味とともに、麺の硬さ、油の量、味の濃さをお客の好みで調整できるのも人気だ。ファンが多く、RankinClipが2019年10月に行った「最強だと思うご当地ラーメンランキング」では博多豚骨ラーメン、札幌味噌ラーメンに続き、3位にランクインしている。 ■六角家は「横浜家系ラーメン」を全国区にした  「六角家」は、「吉村家」で修業し、のれん分け店「本牧家」の店長を務めていた神藤隆氏が独立して1988年に創業したお店。1994年には、世界初のフードアミューズメントパーク「新横浜ラーメン博物館」のオープンと同時に出店し、話題に。その後、カップ麺やチルド麺がコンビニにも並び、“横浜家系ラーメン”の名を全国区にした。「吉村家」「本牧家」とともに、かつては“家系御三家”と呼ばれるほどの人気を誇った。

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛の動きなど、外食市場を取り巻く環境の悪化が六角家の経営にダメージを与えたことは想像にかたくない。ただ、それ以前にも兆候はあった。「六角家」六角橋本店(横浜市神奈川区西神奈川)は長らくその人気を保ってきたが、近隣に「末廣家」(2013年開店)、「とらきち家」(2014年開店)がオープンした影響もあり(ともに資本系ではない)、客数が減少。2017年10月には店主・神藤氏の体調不良で閉店となっていた。

一方で、時を同じくして「横浜家系ラーメン 町田商店」を運営するギフトが9月18日付で東証マザーズから東証1部へ市場変更されると発表。直営95店舗を運営し、プロデュース店舗は460店舗以上。ロサンゼルスやニューヨークにも進出し、「家系ラーメン」を世界に伝えている。六角家の破綻とは対照的に勢いを増している。  近年は、大手外食系企業によって運営される家系ラーメン店が増殖している。ラーメンファンの間では「資本系」と呼ばれることもある。そんな「資本系」は吉村家をルーツとする「家系」とは、まったく別の流れから始まっている。

 吉村家をルーツとする「家系」のラーメンは、職人が修業をして独立(のれん分け)することで店舗が増えていき、技術が伝わっていくスタイルだった。  つねに数本の寸胴で炊き続け、それをブレンドしながら濃度の安定を保つ豚骨スープの製法や、「テボ」を使わず直角に曲げた平ザルを使った麺上げなど、その技術は高く、修業も厳しくて有名だった。さらに横浜がルーツということもあり、東京都内まではなかなか広がらず、都内の家系ラーメンは2000年代初頭で30軒ほどだった。

 ところが、「資本系」家系ラーメンの台頭によって事情は変わる。現在、グルメサイト「食べログ」で東京都内の家系ラーメンを提供する店舗を調べると、1525軒も出てくる(2020年9月20日現在)。  そもそも「家系」という言葉はファンの間で勝手に広まっていった言葉で、商標登録がなされていたワケでもない。家系ブームに乗っかって、2000年すぎ頃から「~家」をつけながらも、吉村家やその系列店の流れをくまないお店がさらに増え始め、ここ5~6年で数社の「資本系」が一気に家系ラーメン店を各地にオープンさせたという図式。中でも「横浜家系ラーメン 町田商店」を運営するギフトは「資本系」家系ラーメンの代表的な存在と言える。

■職人がいなくても家系ラーメンを提供  「資本系」はスープや具材をセントラルキッチンで作り、各店に配送することでラーメンが提供できる。伝統をつないできた家系ラーメンのわかりやすい部分を切り出し、工場生産できるように商品開発したことで、各店に職人がいなくても家系ラーメンを提供することに成功したのだ。  むしろ、従来の家系ラーメン店だけではここまで家系は広まらなかったと言っていい。火付け役は「六角家」のように職人が伝統的に広げてきた従来の家系ラーメン店ではあったが、セントラルキッチンで一律に作る「資本系」のビジネス的な成功によって全国・海外に広まっているのである。

 いまや伝統の味を守っている「家系」のお店は逆に貴重な存在となっており、筆者も含めて熱狂的なラーメンファンはそういった店だけを求めて食べ歩いている状態だ。すでに一般的に知られる家系の味=「資本系」の味になっている可能性が高く、従来の伝統の味はもう知られていないかもしれない。  家系ラーメンの代表選手だった「六角家」破産のニュースは、ひとつの時代の終わりとともに、家系ラーメンの岐路を指し示している。